2012年1月19日木曜日

癌の棲家(Niche)とそのファミリー

『Oct3/4』『Sox2』『Klf4』『c-Myc』 この4つの転写因子は原初『iPS細胞』作成の為に24候補から選ばれた4遺伝子です。高効率ですが癌化が原因で『c-Myc』を除外して残った3遺伝子では作製の効率が悪く、最終的には24の候補(LIST)にも無かった魔法の遺伝子『Glis-1』を加えることで高効率で且つ安全性の高いiPS作製方法を樹立しました。  

この『c-Myc』 は『Klf4』と同じ原癌遺伝子(プロトオンコジーン)ですが、機能役割は手術や怪我での細胞修復(傷口を元に戻す)で威力を発揮します。高効率なのですが粗製乱造の傾向があり癌幹細胞があった場合は、見境無く癌の増殖を招きます。

実際『癌が手術で散った』とか、『手術創に沿って癌が群生していた』類の世間話や風聞は案外この『c-myc』がビンゴかも知れません。『癌幹細胞説』自体は尚未だ仮説なのですが・・・、転移、増殖、耐剤性等に対し大変分かり易い理論と、説得力をもっています。

さて、癌幹細胞の居所(ねぐら:産処)ですが、ニッチと言われる微小空間にいます。ニッチ(NICHE)とは壁面などの窪み(凹)で、花瓶とかの花器が飾られている空間を言いますが、生環境としては低酸素で普段は冬眠(細胞サイクリンではG0期)しています。

前立腺癌幹細胞の場合Nicheはどうも近傍血管内被(リンパ菅内皮)にもあるらしく、ある刺激を受容した場合に新たな細胞分裂をしますが、もし癌幹細胞を出産した場合はNicheは狭いので新生幹細胞は放出されて新たなNicheを求めて流離います。これが血行転移(リンパ行性)の原始と言っていいと思います。

がん細胞が脱分化(先祖返りで幹細胞になる)した場合も同様に新たなNicheが必要になり、これも基底域にあれば浸潤の原始ではないかと思います。
癌前駆細胞(TA期)がコミットメントされ、もし分化されれば通常な癌と成長します。
分化されずに分裂を繰り返した場合未分化癌組織となります。

Nicheは何故隔離された空間かと言えば、他の細胞組織の生環境を適正に保持するためではないかと考えられています。
そのひとつは、不老不死の幹細胞を維持するためで、他の細胞の様に分裂チケットであるテロメアの消耗がありません。Niche内の住環境空間はテロメラーゼで常に活性化されていますし、低酸素環境もそのうちのひとつかもしれません。違った言い方をすれば、Nicheがあって初めて幹細胞となるのかもしれません。

癌は血液から作られると言う千島理論をご存知な方は、カナリ、アブナイ話になってきたとお思いでしょうが、千島理論の場合は血液中の赤血球が癌化すると言う事なので安心して貰っても良いと思います。

癌幹細胞を頂点とする癌ファミリーですが、今まで考えてこられた様な単純なものでは無く、分裂も転移も不可能な塊だけのものや、ある条件下でのみ活動するもの、多士多勢といった様相です。未だ全てが解明された訳ではありません。
癌細胞のリセッターとして『Glis-1』の応用研究もなされているようです。

成功すれば『末期がん』という言葉も過去完了形となり、抗癌剤ともBye-Byeです。

癌幹細胞説は近い未来に、確実に、パラダイムを崩壊させようとしています。



NOTES

iPS細胞  36歳白人女性の頬細胞や関節滑膜とで繊維芽細胞が作製された。
レトロウイルスでホストに導入(感染)させた遺伝子は原初4種類の転写因子。
三胚葉の分化可能な多能性幹細胞ですが、万能性を持つ初期胚(受精卵)や3次元臓器等の作製の可能性は現在は? (山中伸弥教授主幹 京大G)  

転写因子   DNA(遺伝子レシピ)からRNA(伝令・実行部隊)に解読コピーして遺伝子の発現(実行)を行う因子。

C-myc              小細胞肺がんでは多量に発現しているようです。  

自己修復能 ヒトでは皮膚とかが再生されますが、イモリなどは骨まで自己修復されます。
(ヒトの体形成能は胚から胎児の完成で終了し、後は脱分化等によるメンテナンス能が残ります。)

レトロウイルス RNAからDNAに逆転写する酵素をもったウイルス。他にセンダイウイルスやアデノウイルスとかがある。

原癌遺伝子  ヒトでは現在100種ほど同定されています。細胞の増殖を必要とした時に発現します。

TA(Transit Amplifying)      TA細胞は幹細胞から分裂して最終分化前の分裂可能期にある状態の細胞。分裂制限(テロメア)の監視下にある。

コミットメント  アクチビン濃度やHes-1などによる臓器への分化方向性への誘導。
詳しくは iPS Trend(文科省 再生医療実現に向けて) 。

パラダイムの崩壊 多少品性は落ちますが『ちゃぶ台返し』とでも和訳してください。

幹細胞説による癌医療
1)ドーマントな状態を維持する。(休眠させておく)
2)強制的に完全に分化させる。
3)Nicheの生環境を操作する。
4)初期化させる。(Glis-1等リセッター)
などが考えられます。

下リンクでは癌幹細胞と治療の展望について、わかり易く解説しています。
iPS Trend 癌患者様へ