2013年8月9日金曜日

発癌性が強力なほど効果的な抗がん剤と放射線治療。そしてレドックス。


 
 
《がんの因子》

がんの発生は外因性(発癌物質や電離放射線)、内因性(遺伝や老化)に拘りなく、遺伝子の異常が原因である。アンジー(Angelina Jolie)が乳がん予防切除したのは遺伝子「BRCABreast cancer susceptibility gene がん抑制遺伝子;brca1brca2」に有害変異があると言われていて、この遺伝子は前立腺がんにも同クラスのリスクを有している。疫学的に保因者はアフリカ系アメリカ人などに多く、突然変異(mutation)よりも家族性(遺伝)である。 

遺伝子は母親由来と父親由来をもつが家族歴があると女性の場合は50%の確率で保因者(キャリア)、男性の場合50%の確率で発症するが、対立遺伝子(父親対母親由来)がヘテロ(父親か母親のどちらかが正常)から外因性でホモ(父親、母親両方異常)に変異が発生した時に100%発症する。Knudsonの「遺伝子2倍体隔世遺伝-2ヒット説」である。 

 だが、一般論として、がん細胞が幾ら出来ようとも、2ヒットや少々のマルチヒットではがん細胞はフォーカス的(山なり癌塊)に増殖しない。所謂「がん」としての発症は困難である。何故なら組織化される前にがん性細胞は個々に死ぬからである。
 

この遺伝子検査については選別出産(祝福されない子供達の排除とウエルカムなデザイナー・チャイルド)思想を孕(はら)み、言いたい事は山ほどあるが・・・アンジーのフアンなので今回はやめときます。

 

《体細胞の生と死》

体細胞は幹細胞(stem sell)の分裂から始まる。一つはクローン(同じ幹細胞)もう一つは分化方向(機能制限されていく)に行く細胞で、この細胞は最終的には限定された機能性細胞(胃なら胃、腸なら腸)で終わる。従って、低分化がんとは幹細胞に近い性質を持つ若い段階(遺伝的或いは致命的な病原)で癌化された「やや万能型」のがんと言えるが、断定的に高悪性度とは言い難い。note 対して「高分化型がん」は細胞分裂の成熟段階近くで外因性か複製エラー等により癌化している。コピーミス(癌化)の主因は病原毒性では無く老化によるコピー疲労であるかも知れない。がん細胞は脱分化(幼若化)すると云われている。が、これはがん組織が均一の悪性度の細胞集団でないモノクロナール・モデル(癌は一つの細胞から発症)の証拠の一つとなっているかも知れないが、例え低分化がんが混在するにせよ高齢者のがんはおおよそ穏やかである。「癌」の評価は腺腔形成(分化度)よりもグリソンスコアー(組織像)がより正解であるかも知れない。note
 
話が外れた。ここで言いたいのは細胞の「死」である。細胞の「死」は主に五つある。
一つは物理的破壊、代表例は火傷などによる細胞膨張による他殺(ネクローシス)。これは即死。もう一つは遺伝子異常や老化(セネセンス)、免疫細胞からのパーフォリン等による細胞核収縮による自殺(アポトーシス)。これは細胞機能低下、或いは不全後の代謝死で、治療等によるPSA下降が癌細胞の即時消滅を意味している訳ではない。三ツ目はオートファジーで、前立腺はホルモンを枯渇されると自己細胞タンパクを分解して生命を維持させるが、やがて萎縮して自食の結果の死となる。四つ目はがん細胞に多いエントーシス(cell in cell:entosis)。共食いによる細胞死でそのメカニズムは解明されていない。最後は分解された死細胞を単球やT細胞の免疫による掃除。

 

《修復遺伝子と自殺遺伝子、そして免疫での非自己-食殺》

胎児の体形成において指間膜(水かき)が自然消滅するのはヒトには自殺遺伝子があって、不要な細胞は自然死させる機能が備わっているからとされています。

一つの細胞には約10万個の遺伝子、DNAで約30億個を持ち、使用されているのは僅か7%弱で残りの93%は意味不明か或いは無意味なDNAとされ、一回の細胞分裂でのコピーエラー(ポリメラーゼエラー)は3/30億塩基です。無意味な遺伝子領域93%内でのコピーミスでは生体に何の影響も無く無視されますが、使用している遺伝子領域7%にこのエラーが発生しタンパクを合成させた場合に障害が発生します。

どのようなタンパクを合成するかを決める構造遺伝子、何時どれだけ作るかを決める調節部位があり調節部位にエラー(転写の異常)が発生すると「がん」になります。が、この段階では正確に言うと腫瘍かも知れない。現在、遺伝子が転移能や浸潤能へ関与している充分な証明はされていません。未知の領域と言って良いと思います。免疫は非自己細胞は食殺しますが、これもこの段階では正常細胞が単に増殖指令タンパクを活性化しているだけですから非自己(胎児期の免疫システムが完成した時点で合成されていないタンパク)とはならないと思います。しかし、異常細胞ですから修復遺伝子や自殺遺伝子が持つ機能は発動します。

免疫学の人に怒られそうですが、がん細胞に対して免疫はどうも非論理的な印象で、癌細胞の非自己タンパク(がん抗原、エピトープ、前立腺がんではCD44)をペプチドで抗原提示出来る確率はあるのでしょうか?。 例えば大腸がんでのCEA(がん胎児性)は免疫細胞に有効なのでしょうか?免疫異常で無いヒトががんに罹るのは何故なんでしょう?

修復遺伝子とはダメージを受けた遺伝子をスプライシング(切断編集)の様に切ったり糊付けしたり分解したりでDNAを修復します。細胞分裂シーケンスで言うならば、除去修復、組み換え修復、そしてミスマッチ修復の順番となり、何れもコピー完了までに修復するように転写濃度を上げますが、酵素が発現できない場合やダメージが大きくて酵素が不足する時、生体はこれらの細胞に自殺命令を下します。この細胞修復システムのパトロールとジャジメントはguardian angelと呼ばれるP53(がん抑制遺伝子:プロテイン分子量53kDaを産生)テトラマーユニット(四量体)noteであることが解っていて、がん疾患者の殆ど全てでP53経路かRb経路に異常が認められると言われています。P53P21タンパクやRbタンパクとチーム・ワーキングでがん細胞の増殖を阻止します。
比較的副作用が軽微な抗がん剤5-フルオロウラシル(5-FU)の作用機序がこれです。腎臓がんではインターフェロン(IFN)と組み合わせてp53の発現を促し、抗がん剤ストレスでP53を活性化させます。Ⅰ型IFNα/βはp53の発現量を3倍にし、放射線治療においても有効とされています。
 

 

P21(細胞分裂制御因子)はp53カスケードで発現される蛋白の一つで、放射線照射された細胞が分裂停止する解明の途上に発見された副産物である。1990年初頭の事でした。Rb遺伝子は遺伝性網膜癌から発見された遺伝子で、現在は細胞周期のG1捕獲(G1 arrest:細胞修復のために分裂シーケンスを一時停止)させる機能シグナルとして認知されています。


 


《放射線と抗がん剤 そしてレドックスへ》


究極の変異原としては放射線と抗がん剤があります。強い毒性を有し解毒(酸化)の副作用としての発癌を伴います。放射線が入射されると細胞は組織液の電離作用から電子を付与されフリーラジカル状態(不対電子:高反応状態)になり安定(酸化)させるためにDNA鎖を切断(開裂)します。酸化作用と言えます。或いは体液と酸素に反応してヒドロキシラジカルやスーパーオキシラジカル等の活性酸素を生成しDNAにダメージを与えます。活性酸素は細胞脂質膜や蛋白を破壊し生体にダメージを与えますが、電子の移動は電子が負から正電極へ流れる様に連鎖的に他の低抵抗の生体分子をラジカルにします。この通電経路は落雷様と言えなくもありません。note 


ラジカルによる脂質膜の破綻が致命的と言えるのは、親水性成分の多い人体は水に溶けてしまうからで、生命の誕生は膜からと言われる由縁です。

 

核内のDNAはリン酸で強力なマイナス電荷バリアーを構築し菌(殆どの菌はマイナス電荷している)感染などの侵入を防御していますが、正電荷物質などの接近でこのスクリーンは破幕されます。抗がん剤がそれです。代表例としてはアルキル化剤のマスタードガス成分であるアルキル・カチオンがあります。N-ニトロソ化合物も酵素を介在させて酸化した後アルキルカチオンを発生させてDNAコンプレックスを形成させます。最終的に正電荷を帯びたアルキル・カチオンが容易にDNAに結合・侵入してDNA二本鎖を架橋させたり解離(分離)障害して細胞分裂を阻害し自殺させます。
 


放射線や抗がん剤治療では、正常なP53遺伝子があればG1捕獲して細胞修復か、がん細胞をアポトーシスに誘導しますが、P53が欠失している人の場合では、もし細胞が致命的なダメージであった場合P53の介入なしに即時に細胞自殺する事になります。逆に言うならば、致命的な細胞のダメージで無かった場合はより悪質な癌の誕生となります。この機序は不明です。note

 


遺伝的には、P53は父親側と母親側の二つありますが、どちらかが正常であった場合(ヘテロ)ではロシアンルーレット1/16(テトラマー組み合わせ)の確率でG1捕獲処理されて治療効果は見込めそうです。逆に言うならば15/16G1捕獲は不完全となりより悪性度の高いガンの萌芽となります。 


我々人類では、がんに対して、今、これ位しかないのが現実です。短い命、長い命、この不公平さは、なんなんでしょう?
病ってほんとうに理不尽なんだなァ~と思います。

 


余分な話ですが・・・。

再生系正常細胞が治療で受けたダメージはG1捕獲で修正されて、いつの日か正常細胞で復活します。そもそも癌になったんですから、修復遺伝子も欠失しているのかもしれません。P53に頼らずがん細胞を殺したほうが早いのかもしれません。P53の細胞殺傷能が高い程当然副作用も強い訳ですから・・・。


抗がん剤や放射線治療に代わるレドックス(酸化還元)制御が模索されています。 自殺遺伝子(HSV-TK)でがん治療を研究しているグループも出現しています。

京都のK大付属病院でも遺伝子検査が受けられます。保険適応もある様です。


 


Notes 


ある臨床報告では低分化がんは直接浸潤の傾向が強いのに対し(血管浸潤転移)、高分化がんでは静脈転移の傾向が強い(血管内皮胞巣:がん細胞団子転移=クラスター転移)。日本での病理判定では腺腔形成(分化度)とWHOの奨励する構造的異型、浸潤パターンを分類したグリーソン・スコアー(GS)の二つであるが、分化度は下位にシフトしつつあるように思えますが、幾年か先にはパーティン・モノグラムによる予測(プレディクト)かも知れません。



放射線が局所照射の場合はGy/min(グレイ。等価線量表現ではSv/min)、全身被爆の場合はSv/h(シーベルト:実効線量)、線源線量はBq(ベクレル)。

前立腺がん放射線治療での2Gy、4門(4方向)では平均15秒(/1門)間照射の計算になります。
X線の場合はGy=Sv。1Gy当たりのDNA損傷の生成数は、塩基損傷=1000~2000。脱塩基部位=300~500。1本鎖切断=約1000。二本鎖切断=約40。架橋形成=約150。
チェルノブイリ原発事故等から、暴露による発癌率は高い。しかし疫学的な集団としてのリスク評価で、分子疫学研究による個人リスク評価は解明されていない。(cancer biology羊土社刊)
つまり、確定的影響(毛髪の脱毛や白血球減少など)は言えるが、確率的影響(がん等)は証拠不足で確率でしか言えない。



低放射線量の被爆は長寿を授け、制がん作用があるとした幾つかの大学研究室のホルミシス信奉者の皆さん、特にスポンサーの電力中研(理事であった近藤宗平氏)の皆さん!!  被爆地である長崎や広島の被爆した人々は日本の他府県に比べ死亡率が低く長寿だ(近藤宗平氏著)、等と公然と商業本などで引き合いに出して言わないで下さい。事の正誤は僕には解りませんし、興味もありませんが、被爆戦災被害者を思うと、それ以前の問題であろうと思います。疫学的調査は三朝温泉や全国にあるラドン温泉でお願いします。


テトラマー:重合体で、1分子をモノマー、2分子をダイマー、3分子をトライマー、4分子をテトラマーと言っています。♬~のソロ、デュオ、トリオ、クァルテットの方が言葉としても綺麗ですよ、ネ?

p53の機能の回復を対象とした、がんの治療法には限界がある?
原文 David M. Felder/Nature, 468: 572-576

参考