2013年2月17日日曜日

前立腺とPSAの解剖学的メカニズムⅠ

前立腺(Prostate)とPSA(Prostate specific antigen)と癌(Cancer)




《前立腺概要》 
人では骨盤内膀胱下に位置したクルミ大の外分泌器官(内胚葉由来の実質臓器)で、成人では精液の一部であるPSAを外分泌する。形成及び退縮は男性ホルモンの扶養下にある為、石灰化、肥大症、炎症や癌、のう胞等の疾患は加齢による老齢化現象とも考えられているが、神経内分泌細胞はホルモン枯渇により悪性化する。




複合腺(導管が複数集合されて1本の腺管となる)或いは胞状(フラスコ型:ぶどう房)腺に分類される外分泌腺で、外分泌分類では酵素等のタンパクを分泌する漿液腺とされている。分泌される前立腺液は胎児或いは乳幼児には合成されない(免疫システムが完成された時点では認知されない)タンパクから免疫学的には非自己(他人)と考えられるが、病原体(タンパクを合成する核酸を持つ)でもなく、血中にあっても毒性を持たない漿液である。



           
《主なSPEC》
物理量:         大きさ(サイズ)=2530ml、重量=約15g
細胞分類:     基底細胞、神経内分泌細胞、腺細胞。
組織的分割:  繊維筋性間質、移行域、周辺域、中心域と4区域から構成。
腺管数(前立腺洞へ接続):   数十孔(15管説もあり)


                                

《PSA概要》
前立腺で外分泌される前立腺液にPSAProstate specific antigen)と呼ばれる前立腺特異抗原がある。蛋白質分解酵素(セリンプロテアーゼ)の一種とされるこの酵素は精漿の液状化と精子の運動性の亢進を促す単鎖状糖タンパクで、その分子量は34~35kDaの高分子である。前立腺特異型であり前立腺肥大、癌、炎症、等の疾患の検査に有用と言われているが、前立腺以外にも唾液腺腫瘍、膀胱がん、乳房疾患、パジェット病、アポクリン腺等にも陽性反応を示すらしい。血中濃度で測定単位はng/ml
現在癌マーカーとして汎用的に運用されてはいるが、キャンサーボリュームとPSA値との正相関、及びPSAの血中漏出のメカニズムは解明されていない。 血清中PSA半減期は2.6日。    

   

《射精とPSA》
射精時、二つの精巣で作られた精子(キラー、ゲッター、プロテクター)は精管(輸精管)により左右の前立腺内に貫通した射精管で精嚢管と合流します。合流相手は精子運動のエネルギー元とされる弱アルカリ性精嚢液(精液の70%)です。合流した精子と精嚢液は前立腺中心域を貫通した射精管で混合されながら左右2ヶ所ある射精管開口に放出されます。前立腺の各腺房から外分泌された前立腺液(PSA等)は腹数本の導管を経て幾つかの腺管に集合され、射精管開口周辺にある数十数の前立腺洞から各々に噴出されます。

2013年の或るスタディでは50歳以下の男性の射精ではPSAは1時間後に低下しだし、24時間後に元のベースラインに復元しています。理由は精液が枯渇する為で、多くの泌尿器科の医師が射精はPSAの上昇の原因と解説しますが、過去の多くのスタディでも上昇する試験結果は少なく低下もしくは変化なしが大半です。60歳以上の射精では24時間後には上昇するケースはあり、射精時の骨盤内筋肉の収縮で血管にPSAが侵潤すると考えられていますが、尿路閉塞症の男性は特に大きく上昇するようです。

ブドウのひと房が腺房の集合体で腺管はその枝、導管はブドウの実(粒)の枝に相当します。精嚢入口にある精管膨大部には精子は貯蔵されないと云われています。

                             

* PSA値と射精の関係は射精でPSAは減少する。理由は精液が枯渇するから。(Effect of ejaculation on PSA levels) 。

*女性の前立腺は 女性の「前立腺」と「PSA」





《癌とPSA》
PSAは前立腺から分泌される一つの成分ですが、血清にある場合は何らかの前立腺疾患の疑いが生じます。前立腺過形成(肥大)、炎症や癌等があります。前立腺は複合腺(導管が複数集合されて1本の腺管となる)或いは胞状(フラスコ型:ぶどう房)腺に分類される外分泌腺から形成されていて、腺房からは前立腺液を分泌しますが、ダクト(導管)を通り尿道に複数個穿孔された前立腺洞から射精と同時に噴出します。導管及び前立腺房は基底膜に覆われてPSAは体内には漏出しない仕組みになっていますが、もし血管に滲入すればPSA値が上昇し、何らかの理由で基底膜(t 50n~100nm)の損傷が疑われます。前立腺疾患です。
導管癌では基底膜が保持されている場合が多くありPSAが低値なので発見がし難い様ですが、発生頻度は低い(<1%)。

          










《前立腺がんの組織学的分類》
腺癌(95~98%)
稀な腺癌(類内膜腺癌 粘膜ガン 印環細胞ガン) 
移行上皮癌
扁平上皮癌
基底細胞癌
神経内分泌癌(小細胞癌、カルチノイド、腺癌が混在した癌)

《血中PSAの影響する前立腺疾患》
腺癌、前立腺肥大症(BPH)、炎症、のう胞

《血中PSAの影響が不明な前立腺疾患》
低分化がん、神経内分泌細胞(NE)がん、導管癌、全摘出後の全身播種と云われるPSAのみの再発。 

《血中PSAの影響しない前立腺疾患》
前立腺良性腫瘍(前癌PIN)。

《前立腺以外のPSA陽性反応》
膀胱がん、パジェット病、乳房疾患、唾液腺腫瘍、アポクリン腺疾患。j1, e1, e2, j2 下部尿路閉塞症(特に射精後)

転移の多い順》

日本では、骨⇒リンパ節⇒肝臓⇒肺
直腸転移は20年間で4例(日本)と言われています。


《死亡について》

前立腺がんは長寿です。2012年では男性平均寿命より2歳ほど長生きです。でも、PSAの無い時代より対平均寿命差が4程減少しています。何故だか解りません。



















平均寿命より長寿な癌は他にありません。他の部位による癌死亡年齢の比較は下グラフです。







2012年度男子平均死亡年齢(実質平均寿命)は78.1歳で、0歳児平均寿命79.94歳との偏差は修正されたグラフです。






Notes

使用しているイラスト(図)はNETからオリジナルを借用して加工しています。著作権等の問題がありましたらばご連絡ください。即時消去します。ina.takasi@gmail.com
その前に、この素晴らしき作者達に深い敬意を表します。
参考文献
j1;日皮会誌:115(1) 15-21,2005
 
e1;Immunohistochemical labelling for prostate specific antigen in non-prostatic tissues.
e2;Immunocytochemical detection of prostate-specific antigen (PSA) in skin adnexal and breast tissues and tumors.

j2 PSA  神戸大学医学部附属病院病理診断科 酒井康裕、柳田絵美衣、今川奈央子


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