2012年3月10日土曜日

早期発見で、癌死は減るのか?(イエテボリから)

(まるで無意味なPSA検診論議。介入群、対照群ともに全死因死亡率が同じなら相対生存率は100%である)



200912月に日本泌尿器科学会は『前立腺がん検診ガイドライン2010年増補版』を公表したが、そのなかで、 PSA検診を日本の受診機会である住民検診及び人間ドック検診などで普及させる」とし、対策型検診としてPSA検診の実施を強く推奨している。

20093月ストックホルムで開催された欧州泌尿器科学会で大規模コホート調査 ERSPC(欧州7ヶ国)とPLCO(米国)の中間報告で,ERSPCにおいてPSA検診群が無検診群に対し死亡率リスク比0.80の有意差で死亡率が減少したことをエビデンスとしている。

では、諸外国の関連団体及び学会の評価は?

米国:概ねの機関はPSA検診を推奨していない。不利益な情報を提供した上で個人判断を推奨。(米国泌尿器科学会、NCI-PDQ,  NCCN,  米国臨床腫瘍学会、米国がん協会) 

欧州:対策型としてのPSA検診を推奨するには証拠不十分である。

英国ERSPCでの過剰診断・過剰治療の影響が明確でなく、英国の検診プログラムに導入するための判断にはならない。

日本:(泌尿器科学会)ERSPCの研究結果により死亡率減少が確立したことから住民検診を強く推奨する。

日本:(第3者機関 「がん検診の評価とありかたに関する研究」・班 )
 エビデンスレベル「1-」(死亡率減少効果=一致性なし。質の低いメタアナリシスなどの系統的総括がおこなわれている。)
推奨グレード「I」(証拠不十分で対策型検診には推奨できない。不利益を十分説明した上での個人的判断の受診は妨げない。)
研究班は何れも最低レベル&ランクの評価決定をしました。

世界中で日本の泌尿器科学会だけがPSA検診を強く推奨しているのは何故でしょうか?
日本の前立腺がん罹患率は世界183カ国で81番目、11.5人/10万人(年齢調整data)決して高くはありません。

失礼な話だが、そもそもERSPCの死亡率減少は事実なのでしょうか?

死亡率だけをPICKUPしてみると
PLCO(米国)追跡10年間 
PSA検診群  前立腺がん死亡率 2.7  全死因死亡率 116.2
PSA非検診群 前立腺がん死亡率 2.4 全死因死亡率 120.0

ERSPC(欧州)追跡9年間
PSA検診群  前立腺がん死亡率 2.9  全死因死亡率 
PSA非検診群 前立腺がん死亡率 3.6  全死因死亡率 ー

ERSPCでは全死因死亡率が空欄ですが、翌年スウェーデンのイエテボリ研究が公表されました。

イエテボリ(スェーデン)追跡14年間
PSA検診群  前立腺がん死亡率 4.4  全死因死亡率 199.1
PSA非検診群 前立腺がん死亡率 7.8 全死因死亡率 199.2

前立腺がん因子による死亡率の顕著な有意差に対して全体の死亡率(全死因死亡率)に差がありません。実に不思議な数値をみせています。因みに全死因死亡者は検診群1981/9952。非検診群1982/9952 共に50~64です。 前立腺がん死亡者は検診群44、非検診群78となっています。

50~64歳男性で前立腺がん以外の死因は明確にされていません。同時にイエテボリの方が死亡率が高く思われます。過剰治療のエフエクトと言われても反論が出来ないのではないでしょうか。私には、少なくとも「早期発見が長生きの必要条件」とは思えないデータです。

誰が考えても、前立腺癌死亡>その他原因死亡となるのが普通の世間。前立腺癌死78人で残った1900人程の患者の死の原因は闇のままである。 78人では誤差範中で、優先検証すべきは1900人の死因である筈である。並存疾患死亡を排除すべきであり、製薬デペロッパーでもない我々患者にとっては合併症や治療過誤も含めて死亡リスクであり、死亡そのもの事態が癌死である。従ってこのような分類は何の意味も持たない。

前立腺癌潜在・患者数は検診郡と非検診郡はエントロピー、リトルの法則から同数と推定され、人為的介入(早期治療)しているにも拘らず全死因死亡率が同数との調査報告には強く疑問を呈します。


≪PSA対策型検診で死亡率が44%減少。に対するINAの反論。≫
(2013/9/16追記) 


ある医療系サイドサイトのPSA検診問題で、僕の「不要」に対し、44%の減少効果を主張するGUESTの書き込みがありました。賞味期限がやや超過した感じがしなくもないテーマではありますが・・・、その反論です。
要約と背景
イエテボリ・スタディでの全死因死亡者数は介入群・症例群とも同じで2000人、リクルートされた患者数は双方とも10000人、年齢は5064歳。癌死判定された患者数は介入群44人(母集団10000人で0.44%)、症例群では77人(母集団10000人で0.77%)、この結果から検診介入による死亡減少効果は44%とされた。追跡期間は14年。
日本における2011年度の前立腺がん患者総数は18万人(推定)、罹患者5万人(年)、年間がん死亡者1万人とされている。

inaの言い分
死亡原因の追次4項、イ)ロ)ハ)ニ)はWHO準拠との事ですが、この不自然さは理解できません。
何故なら、減少効果44%を認める事は、この集団の時間軸が関与しない絶対比パターン(全死因者2000人対症例群がん死亡77人或いは介入群がん死亡44人)も同時に認める事になり、日本の前立腺がん死亡者1万人(年間)に換算適応させた場合、年間26万人の合併症などの死亡者が算出される事になります。対策型検診をした場合はその数はもっと膨らんで45万人もの判定不明な死亡者が算出される事になります。都合のよい部分的な比率44%だけを持ち込む訳にはいかないでしょう。
減少効果44%を認めるならば、日本での前立腺がん総死亡者数26万人~45万人(年間推定)をも同時に認めなければならない。出来る相談ではないでしょう。或いは全死因死亡者2000人の合理的な死亡説明は必須で、過剰な医療介入を否定出来る証拠もいるでしょう。
参考
全死因死亡率は欧州主要7ヶ国ERSPC0.9995% CI:0.97-1.02)、PLCO米国(0.9795%CI:0.93-1.01)で介入群と症例群とも何れも有意差はない。(ERSPCPLCOに関する更新ステートメント 2011/3/31から)
PLCO10年累積全死因死亡者数が約4000人で、癌死者約90人、5574歳。イエテボリと同様、全死因死亡者が出鱈目に多い。これは癌死者1人に付き44人が不審死している計算になる。因みに米国での前立腺がん年間死亡者数3万人、患者総数23万人(2005年)。PLCOに従うならば44倍の132万人が全死因死亡者数に換算され、患者総数の23万人を優に超える。これらの有り得ない数字を見ると僕は反論する自信を喪失させられ・・・僕はやはりアホなんと違う・・・と思えてくる。ERSPCは全死因死亡者数の集計を公表していない。



Notes



欧州7ヶ国:オランダ(罹患率世界順位26-罹患者数/10万人67.7)、ベルギー(12-100.5)、スペイン(40-57.2)、スイス(15-91.3)、スウェーデン(14-95.5)、フィンランド(18-83.2)、イタリア(38-58.4)。  【ポルトガル(49-50.1)、フランス(4-118.3)も参加したが今回データとしては除外されている】。
注:カッコ内は(罹患率世界順位ー罹患者数/10万人) 明治大学ー鈴木教室より

コホート 共通因子を持つた集団

メタアナリシス 参加国のバイアス(偏り)を排除し、コンデション(検査条件)等に重みづけして、データの補正をおこない分析し、帰納的に帰結する手法。 


参加国の統一プロトコルはなく、a=直接死因、b=aを誘引した疾患などの追次死因原因は明らかにされていません。


参考文献
有効性評価に基づく 前立腺癌検診ガイドライン ERSPC・PLCOに関する更新ステートメント 
データやグラフを詳細に解説しています。厚労省や営利団体からの影響を排除したチームで構成されています。 
( 「がん検診の評価とありかたに関する研究」・班 )