2013年4月30日火曜日

オカルト(PSA局所再発)から転移死亡例はあったのか?


実在不明なPSA局所再発のがんを「オカルト 」(occult local recurrence)と呼んだCharles R. Pound,達は1997人をリクルートした6年後のスタディ Natural History では、正体が隠れた「ハーバー」(harbor distant metastatic disease 潜在的遠隔転移がん) と述べている。 

Natural History は前立腺がん根治手術後から遠隔転移するまでの自然放置した時間経路の調査である。このコホートの死亡因子は全て癌に起因するもので、それ以外の理由で死亡したものは誰もいない。PSA再発は304人、PSA再発後の遠隔転移は103人(保険数理で中央値8年)、転移後の死亡は44人(保険数理で中央値5年弱)。手術後15年間のレンジでのレトロスペクティブ(後ろ向き追跡調査)である。 

当然死亡起因は遠隔転移にあるが、遠隔転移に局所床(prostatic bed)が介在した可能性は言及されていない。つまり、局所再発して成長した癌が遠隔転移したのか、もしくは手術前に既に遠隔転移していたのか(オリゴメタ)、或いは転移経路(御旅所みたいなもの、微小がん転移元)としていたのかは、この分脈からは不明である。リテラシが無いと云われれば笑うしかないが、PSA再発した304人中83名は術後PSA値が高く放射線補助治療をうけたがPSA低下がなく遠隔転移とカテゴリされた。期間中の死亡者は103名、遠隔転移での死亡者が44名と云う事実に従うと、最大20名が局所再発からの転移であった可能性は否定できない。 
だが、1997人、15年間で臨床的に局所(直腸、膀胱や尿道を含め)再発と記録された症例は1名たりとて存在しない。1次転移巣と2次転移巣との腫瘍形成のダブリングタイムが同じと言った説に従うならば、このスタディで遠隔転移と臨床診断されたその時点でオカルト局所再発は否定された事になる。少なくとも遠隔転移の経路では有り得ない。このスタディではT3b(手術推奨外:精嚢浸潤)が105名、リンパ転移(N1:D1)120名が患者登録されていた。


これは、勇気ある発言をするならば、PSA局所再発など実在しない事を意味している。

PSAに注目すれば、この臨床試験の資格条件に満たず排除された人を含めるとPSA再発は315人(16%弱)だが、PSA上昇した人は術後5年で27%10年で53%であった。このPSA再発率の低さは、リクルートした患者の術前ステージでT2c以上の人が151人、PSA20以上で96人(多数が10以下)、グリソンスコアーでは8-10の患者が155人という全てに於いて低リスクの好条件下であった所為かも知れない。 


 Notes

本文は 「前立腺がん再発治療(癌:局処病か全身病か」 TNM分類(UICC)の番外転移:腹膜播種、直腸転移、吻合膀胱頸口≫の最終章に追記された複製文です。

ダブリングタイム(倍加時間):腫瘍体容積(細胞数)が2倍になる時間。転移時がん細胞は変質するが、母細胞の倍加時間は転移先でも原則同一とする説(EMT-MET)や、転移先に依存する説、色々いわれている様ですが、転移能がある細胞質だけが転移するので一般的にダブリングタイムも早いと思っています。なので、原発巣よりも転移巣の成長ははやいと思っていますが、薬剤やガンマーカーの応答性の違いはあるが、増殖率は同じと言った報告もあり、僕は正直あまり良く分かりません。前立腺がんで言えば原発巣、転移巣、1次転移、2次転移等のダブリングタイムは同じではないかと思っています。転移先でも均一の細胞組織の形成は出来ないだろうと想像しています。
乳がんでは原発巣DT平均96日⇒肺転移病巣DT平均74日となっています。


EMT(Epithelial-Mesenchymal transition:上皮間葉転換)はがん細胞が転移する時に上皮分化形質から間葉系様細胞に表現を変え血管内を遊走します。 MET: (Mesenchymal-Epithelial transition:間葉上皮転換) は血管内で遊走していたがん細胞が新たな転移場所でMMP(タンパク質分解酵素)などを分泌して血管を溶解脱出して他臓器に接着する時に元の細胞質(上皮細胞由来)にリモデリングします。新たな転移メカニズムの仮説ですが、前立腺がん転移の場合では細胞単体ではなく、EMTに無関係なクラスター(癌胞巣=団子)転移ではないかと思っています。
転移先がパッシブ(消極的受け入れ)なのか、或いはアクティブ(積極的誘導)なのか結論は得ていませんが現時点では誘地論が優勢な様です。ここでの問題はPSAですが、前立腺がん細胞が接着分子から離脱するためにもしも間葉系細胞(stroma)に細胞変身した場合のPSA値の変化については、残念ながら僕にはわかりません。