2011年3月21日月曜日

PSA局所再発(言葉では解るのだが・・・実体は・・・)


前立腺がん全摘後のPSA局所再発で『局所残留癌』、そして『局所微小転移:オリゴメタ』とは一体ナニものであろうか?これが今回のテーマである。 

PSA再発の疑いではCTや骨シンチで明らかな転移所見がない場合、局所再発と見做され、治療のプログラムが組み立てられる。
局所再発とは近傍臓器(膜及び上皮組織)への転移及び、残留癌(?)を言う。

『局所転移』 きわめて稀ではないかと思っています。  
転移性膀胱がん、或いは転移性直腸がん。いずれも前立腺近傍の臓器での癌である。だが、しかし、残念ながら私には、聴き慣れた言葉ではない。何故か?答えは簡単で、発症された症例は限りなく稀で、進行した癌でも近傍臓器への転移は聞かない。従って『癌取り扱い規約』でのTNM分類では、N=リンパ節転移(領域転移)、M=遠隔転移であり、浸潤した精嚢や神経、尿道や膀胱頚部は(T)のカテゴリーに所属して分類されている。全摘では当然これらの臓器も根こそぎ切除される訳であるから近傍臓器への転移は考え難い。

『局所残留癌』 言葉はわかるのですが・・・
残留癌とは取り残した癌細胞の事を言う。
あるTextでは術後2年ほどで取り残された前立腺良性細胞の修復再生がPSA上昇の要因とし、この考えを妥当としているが(神経温存、放射線治療の術例は別として)PSAの上昇限界がある筈である。これは癌細胞にとっても同様で生命維持には他臓器組織への侵入、接着を必要とする。しかし、前立腺がん細胞は、以上の様に近傍臓器等への移植はおこり難い。あるとしても、膜外(間質)での生命の維持は困難である。
こうして可能性を順次消去していくとやがては尿道や膀胱組織などに浸潤していた癌細胞に辿り着くが、だが、癌病床巣拡大ではなく、前記の如く間質への浸潤後の遊走では転移となり、このケースも大変考え難くなる。

PSA再発の発症を放置した症例で、膀胱がん、或は近傍臓器への転移が認められた報告があるならば納得出来るが・・・、今尚知らないのは私だけであろうか。多くの記載はPSA再発と生存率及び生命リスクなどのデータと2次処置までで、PSA局所再発から臨床癌にいたるプロセスのあるべき記事欄は空白のままである。

日泌会及び各医療機関も具体的に残留癌の症例は言及していない。患者サイドとしては充分な解説や説明を望んでいるのだが・・・。空白のままである。


Note_1
癌が精嚢、膀胱頚部にまで広がったのは転移ではなく浸潤と言う。癌塊の接着分子から乖離した単独癌細胞が間質への浸潤後に遊走して新たな他臓器に着床し増殖する場合を転移。浸潤は転移の前駆事象ではあるが転移とは言わない。断端陰性に拘わらず転移があるのは当然であり否定しないが、病巣所属組織を切除しているケースでは、局所再発は考え難い。癌再発では浸潤なるカテゴリーはない。遠隔転移(血行)と領域或いは局所転移(リンパ行:局所癌)の2つである。
前立腺が近傍臓器に癒着していた場合はがん細胞の取り残しはありえるかもしれませんが・・・。
 
前立腺良細胞は間質性細胞を喪失すれば生存できませんが、がん細胞は単独での生存は可能とされています。卵巣がんでは腹膜に播種されますが、前立腺がんの腹膜播種はありません。また、がん細胞がデノビエ・筋膜に侵入して、直腸などの基底膜をも透過、或いは細胞外マトリクスに生着しているケースも知りません。しかし、PSAが上昇するには血管やリンパ菅の近くに200μm以内?)がん細胞がいる事が前提となります。つまり、他組織に血行ではなく脂肪域や固有の筋層から組織膜を貫通して破る能力を必要とし、最低でも組織リンパや血管のある近くにがんが浸潤しなければPSAに影響を与えません。PSAは高分子でグリコ・プロテイン糖タンパク分子量約30KDaですが血管には侵入できると思います。(毛細血管7μmでもマクロファージ13μmは変形或いはMMPを放出して流出されます。酸素は3.2kDa)
放射線治療後のPSAが40近くの人もおられますが、憎悪や転移は証明されていません。PSAとキャンサーボリュームとは正相関していると思いますが不明な点が多々あるのも事実です。


Note_2
あるデータでは転移の約80%が骨への転移を認め、35%ほどがリンパ節、残りは肺で、数%がその他臓器である。血行性からは骨、播種、肺。リンパ行性からは膀胱 仙骨等の転移があります。リンパ管はやがて静脈血流(鎖骨下)と結合しますが、骨、肝臓(消化器系)や肺(呼吸器系)への転移は動脈系血行と言われていますが、前立腺がんの場合は静脈系転移です。管筋の肉厚は薄い順で、リンパ管、静脈血管、動脈血管となり動脈血管へはがん細胞は侵入しにくいと考えられています(間質細胞が関与してMMPを分泌して基底膜などを溶解して進行します)。神経浸潤していた場合はリンパ転移の可能性があり、やがて静脈経路で転移する可能性が考えられます。

Note 3 
全摘後で癌幹細胞(仮説)が血管内皮、リンパ管内皮及び低酸素域に存在した場合は、転移及び残留は成立しますが、現行の治療では癌幹細胞の死滅はできません。
同様に低分化、未分化の場合も細胞組織的に或いは病理学的にも発生母地の判別は難しく、腺癌とされていても癌の死滅は困難とされています。

PSA再発においては放射線局所照射でPSAの低下をその根拠としますが、良性細胞のダメージでもPSAは低下すると思いますが・・・。

局所再発とは何か? 教えて欲しいと思います。

参考
癌の家柄(iPSの氏素性) PSA再発(前立腺がん)治療は有益か?
http://ina-takasi.blogspot.com/2011/12/psa.html

前立腺がん再発治療(癌:局処病か全身病か)
http://ina-takasi.blogspot.jp/2013/02/blog-post.html
1997人、15年間の後ろ向きスタディの遠隔転移死亡患者で局所再発経路であったのは一名たりとてありません。1次転移(局所再発)からの遠隔転移ならば局所マージン・ステイタスは証拠となる筈だが、それすら証明されていない。1982年のスタディである。それから現在まで患者は死んでも「局所再発」の言葉は決して死なない。オカルトである。

Dirty Little Secret. 局所再発 と 非浸潤がん
転移しないガンだからこその拡大手術。その理由とは・・・

2011年3月17日木曜日

ED治療薬(勃起を促すとPSAが上昇する。は本当か?)


『PSA難民・・・』ではLH(黄体ホルモン)、ED治療薬(PDE_5阻害薬)について触れましたが、今回補足を述べます。


バイアグラ・シアリス・レビトラなどのED治療薬はPDE_5の活性化(勃起した状態を元の自然な状態に復旧させる働き)を阻害する薬(サプレッサー)です。勃起を促進させる薬ではありません。

前立腺がんの手術などで性的能力に障害を生じた場合などに処方されますが、ドライエジェクション(少々品位に欠けますが“空射ち”と訳してください)が改善される事はありません。

日本のED治療では、PSA値とED治療に明確な因果関係は無い。との判断で、処方の根拠は以下のBJU.INT(英泌尿器科学会国際学会)の報告内容に準拠しています。要は男性ホルモンで勃起を促してもPSA値に変動はないので、従って、その持続時間延長の目的薬はなんら抵触しない。が理由と思われます。

Coward RM, et al. : BJU Int.103 : 1179-83,2009
加齢男性性腺機能低下症(LOH)患者にテストステロン補充療法をしても、5年間のフォローにおいてPSA値は変化しなかった。また、前立腺癌の発生率も上昇しなかった。一方、性機能やQOLは改善し、総コレステロール値の低下がみられた。

一方では Prostate Specific Antigen (Michael Brawer AND Roger Kirby )なる解説書では、
視床下部ー脳下垂体ー性腺系
視床下部ー脳下垂体ー性腺系に影響を及ぼす因子が血清PSAレベルに対し重要な影響を及ぼしている。前立腺上皮体に言えることであるが、PSAは男性ホルモンのコントロール下にあり、内科的或いは外科的去勢を行うとPSAレベルが大きく低下する。例えば、良性疾患で径尿道的前立腺除去(TURP)を行うと、血清PSAレベルが有意に低下する。

どうもMr、マイケル陣が有利な論理展開のようです。PSAは癌特異ではなく正常細胞でも大きく変化するのは確かなようです。従って、勃起や射精はPSA上昇を誘導します。もし癌細胞があれば、増殖を促します。

前立腺がんのPSA再発を避けるには、男性を諦めるのが一番です。PSA再発では抗男性ホルモンやLH-RH遮断薬そして放射線が待っています。ほぼHOPELESSな帰結でしょうか・・・。
僕は苦し紛れに喘いでいます。周囲からは往生際が悪いなどと罵声を浴びながらも救いの道をいまだに模索しています。結論的には『PSA再発=癌とは限らない』と(苦し紛れのこじつけ論的な印象もなくも無いのですが)、暫くこれで行こうかと思っています。

注)
去勢後PSAの不可解な上昇原因の可能性として、副甲状腺ホルモンとの発表がなされましたが、他にも大きな理由があると思います。
PSA値は副甲状腺ホルモンでも上昇 (日経メディカルより)2012/3/8追記

PSAは3種類ありますが、上記では全てTPSAです。良性細胞PSAはFREE-PSAで多く検出すると言われています。F/T 比を測定すれば全体像が明確になるかもしれません。テストステロンは主たる男性ホルモンです。視床下部から脳下垂体にホルモンの制御指令をします。性的興奮である場合は性腺系に働きかけます。しかし、血清中のテストステロン濃度が、前立腺組織周辺、或いは細胞に与える影響や反応と相関しているとは言えません。受容体も含めたシステム全体の機能性の問題と思います。

前立腺上皮: 果実でもそうですが、基底層にはいろいろな制御機能とかがあり、被膜目的だけではありません。前立腺の基底細胞層だけが残っても、再度アンドロゲンを与えると元の前立腺に
戻ると言われています。幹細胞、或いは未成熟な未分化細胞(前駆細胞)があるだろうと思います。

径尿道的前立腺除去(TURP): 前立腺肥大などをレーザで切除する術式です。




参考

射精でPSAは減少する。理由は精液が枯渇するから。(Effect of ejaculation on PSA levels)

1998 Mar;51(3):455-9.
The effect of ejaculation on prostate-specific antigen in a prostate cancer-screening population.
この論文では射精とPSAは無関係と結論しています。

2011年3月2日水曜日

全摘後のPSA再発は約半数でその60%以上は非転移もしくは非がんである。(前立腺がん)

RRP1次処理後におけるPSA再発は約30%ほどであり、その殆どは術後1ヶ年以内である事が、各施設で報告されている。では術後15年ではこの数字はどのように変化するのであろうか。そして、そこでは再発率30%は幻想にしか過ぎないことが理解できる。
日泌会・厚生科学研究班編/医療・GL(06年)/ガイドラインでは症例数:T1、T2、T3ステージ、サンプル数合計1997において15年間のトレサビリティで以下の結論を導き出した。
『前立腺全摘除を施行した症例の15年の非転移率,非癌死率82,91%である.PSA failureとなった症例において,5年間で明らかな転移を有さない症例は63存在する。PSA failureとなった症例の検討では,Gleason Score8未満,手術後2年より経過したPSA failure,Gleason Score8未満でPSAのdoubling timeが手術後10ヶ月以上の症例ではその他の症例と比較し有意に転移が出現しない。』
PSA failure後の臨床経過については、
5年間で明らかな転移を有さない症例は63.GS8未満,手術後2年より経過したPSA failure,GS8未満でPSADTが10ヶ月以上の症例は有意に転移が出現しにくい.』
この文脈(context)からは直接的な言及(リファー)はないが、5年経過で48%がPSA再発と書きなおせる。(下図フロー参照)
15年経過した時点で非転移が82%と統計されている事は、PSA再発とされた48%の半数以上(63%)が結果的に転移していなかった意味になる。術後5年で非転移とされ、それ以降に転移とされたケースはレアであろう。従って事実上の再発は18%で、PSA再発(48%)と診断された患者のうち63%は癌が無かったとするのが自然である。グラフからはこの63%は転移待ちなのですが寿命か癌死かどちらが早いか、患者の年齢で決定されるでしょう。
私の言う幻の癌とは、この63%の事を指す。痛くも痒くもないない癌(ラテント)。
このようにして、この文脈を俯瞰してみれば大学系病院の公式発表されたPSA再発率20~30%では多くが転移となり、患者は理解と判断に苦しむのである。

サンプル指数を100人とした場合の図式を下図に示した。






















本邦に於ける追跡調査では、『根治的前立腺全摘278症例の臨床的検討』として三重大学大学院医学系研究科腎泌尿器外科学、愛知県がんセンター中央病院泌尿器科、稲荷山病院泌尿器科の合同チームが2009年に「泌尿紀要 55、531ー537」で発表しています。Abstractは下記。

(今回278例の前立腺全摘症例の成績について検討した.患者全体での全生存率,疾患特異的生存率は10年でそれぞれ96.3,99.3%であり,5,10年PSA 非再発率はそれぞれ67.9,55.1%であった.PSA >20,生検時Gleason sum 7,8∼10 がPSA 再発に対して有意な危険因子であった.neoadjuvant 内分泌療法の有無はPSA 再発に対して有意な危険因子とはならなかった.)

このコンテクストでもPSA再発率は約半数を記録している。尚、OSは96.3%を記録している。
(再発定義や患者ユニホミティーは異なり、単純比較はできませんが、参考に。)
『根治的前立腺全摘278症例の臨床的検討』

泌尿紀要:51:575-580/2005年では、 5年PSA非再発率  pT2=84.8%   pT3=35.9%。
pT3では64%がPSA再発である。

PSA再発でのホルモン治療後ではPSA20や30は可愛いほうで、PSA100近くの患者もいます。が、癌の姿も、かたちも、影もありません。全摘出後のPSA上昇は説明がつきませんが、治療は開始されます。放射線でのサルベージ(局所巣)では約50%の奏功率ですが、癌細胞である証拠はありません。これを説明できる医師はいないでしょう。
上皮細胞である限り、治療で細胞を殺傷すれば、傷の修復と同じで通常の代謝よりも頻繁に細胞復旧し、PSAは上昇します。つまり、全摘前のPSA上昇率よりも治療後は数倍の上昇率があっても
当然であり、癌細胞に限った事でもありません。むしろ、間質を伴った良細胞のほうが説明がつくと僕は思うのですが・・・。但し、神経温存の場合でもPSA<0.5の様です。


Notes

63%はPSA 4あっても転移なしの状態である.従って必ずしも癌再発とは言えない.』
GL06日泌会

『5年間で明らかな転移を有さない症例は63%.GS8未満,手術後2年より経過したPSA failure,GS8未満でPSADTが10ヶ月以上の症例は有意に転移が出現しにくい.』
日泌ー厚生 GL06