2012年5月26日土曜日

放射線治療で高悪性度癌が3.5倍に増幅する理由(HIF-1陰性が癌幹娘細胞か?)




動物が思わぬ敵と遭遇したとき、「闘争か逃走か = fight or flight」の選択を迫られる。恐怖をうけた生物の低酸素状態をウオルターキヤノンはストレスとの言葉であらわした。19世紀初頭のころである。 

では、細胞が低酸素状態にあれば、どうなるのか? 

早い話が胎児である。未形成胎児の細胞達は自己が持つ遺伝子HIFを活性化させて、近傍の血流へ接続させる。血管新生である。『癌の棲家(Niche)とそのファミリー』でも触れたが、原癌遺伝子と言われるC-MYCに対しHIFは低酸素誘導因子と呼ばれ、種々な遺伝子の転写誘導をして60兆ヒト体細胞の完成を目指し、ホメオスタシスの機能成立までHIFを分泌する。

成人組織では炎症(免疫)、解糖(代謝)、ホメオスタシス(恒常性維持・細胞数制御)と分散的にだが非恒常的に僅かに機能してゆく。が、しかし重要な役割がもう一つある。それは癌細胞の転移、そして増殖の主役としての役割をも担っている。プロモータ・プログレッションとしてのバイプレイヤーである事実である。
低酸素、低PHでなければHIFは分解され機能されず、結果として奇形を誘引する。サリドマイドによるHIF阻害がそれである。 

2012418京都大学・原田浩 学際融合教育推進センター生命科学系キャリアパス形成ユニット 放射線腫瘍生物学グループはタイトル『放射線治療後のがんの再発メカニズムの解明』を科学誌 Nature  Communications」 に発表したことをHP上公表した。 

この論文のレジュメは、
≪放射線治療前には悪性がんの17%にすぎなかったHIF-1陰性低酸素がん細胞が放射線治療を生き延び、再発がんの60%を占めるまで増殖することが見出された。この結果はHIF-1陰性低酸素がん細胞こそが再発がんの主な"源"であることを示している。放射線治療後に活性化するHIF-1を阻害してがんの再発を防ぐという治療法の確立につながります。また、再発源となるがん細胞の局在が明らかになったことで、そこに高線量の放射線を集中照射するという放射線治療法の確立につながります。≫ 

前立腺癌のホルモン治療では、2003年フィナステリド(2型阻害)で行われた試験(PCPT)、及び2010年デュタステリド(1、2型阻害)で行われた試験(REDUCE)のFDA検証結果では、PSA値の低下及び癌の発症予防的効果は認めたが、より悪性度の高い癌の発現増殖を招いていた事実をも検証している。 

抗がん剤も同様で耐剤性を獲得し、より高悪性度癌細胞の発現を招く。
低酸素域(最大酸素抗拡散範囲・組織血管から100250ミクロン)にあるHIF陰性低酸素癌と癌幹細胞についての関連性には京大は言及してはいない。



notes
HIF-1(LOXによる)は形質転換させる遺伝子TGF-aEGF,TGF-β等を活性化させる形質転換増殖因子でもある。

論文では癌細胞の転位(血管に向かって癌細胞の移動)を画像証明していますが、この事実は癌細胞にも足(仮足、虚足)が存在する、或いは走化性の証明と言っていいと思います。
精子の尻尾ではありませんが、ミトコンドリアの作用と思います。

HIF陰性癌細胞が脱分化して癌幹細胞に転換する説もありますが、否定されていません。




引用
nature commications
Cancer cells that survive radiation therapy acquire HIF-1 activity and translocate towards tumour blood vessels
放射線治療後のがんの再発メカニズムの解明 京都大学

抗がん剤で耐剤性 癌増殖  Nature Medicine から(2012/8/17)

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